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2017年 10月 17日
カツサンドが流行っている。全国的な流行りとか全世界的な流行りとかいうわけではなく、うちの近所、半径500m以内で流行っている。 事の起こりは一軒の総菜屋の新メニューからだった。 切り干し大根のノルウェー風サラダだとか、インド風肉じゃがだとか、くさやの干物のトマトソース煮込みだとか妙なメニューで全国的に知られた総菜屋なのだが、その店が今回、満を持して出してきたのが「純和風カツサンド~梅しそソースと卵のハーモニー~」だった。それがテレビで紹介されて大行列ができた。全国放送だったので、わざわざ遠方から訪れる客もいた。 それに乗っかろうとしたのが総菜屋から徒歩30秒のパン屋だ。「老舗パン屋のこんがりカツサンド」と銘打って昔から変わらなかった何の変哲もないカツサンドをリニューアルして出してきた。食パンにカツをはさんでさらに油で揚げたヘヴィーな代物だがこれがまたウケた。 すると続々と近所の店がカツサンドに乗り出したのだ。イタリアン居酒屋の「ミラノカツレツ風カツサンド」とか、うどん屋の「うどんdeカツサンド」とか、タイ料理屋の「カツ・パッタイ」とか、老舗理容室の「カツ刈り」とか、枚挙にいとまがないというやつだ。 おかげでネットではうちの前の道は『カツサンド通り』と名付けられ、なんの変哲もないというよりやや田舎なこの町を観光地にしてしまった。するとアホなうちの父が妙なことを言い出した。 「うちもひとつカツサンドを出すべえ」 そして作業場にこもって何やらごとごとやりだした。うちは100年続いた畳屋だ。質実剛健が家訓だが、住み込みの丁稚から婿養子に成りあがった父は一攫千金を狙う山師気質の持ち主で畳以外にあれこれ手を出しては祖父から雷を落とされていた。 祖父の目が光っていたころには父の無茶な商売の焦げ付きもボヤ程度で片が付いていたのだが、祖父が亡くなるとすぐに父は大きな博打を打って見事にこけた。おかげで祖父が遺したわずかばかりの財産は全て母の通帳から消えた。 財産は母が一人で相続していたので借金を理由に離婚してやれば良かったものを、惚れた弱みというやつで全額を母が返済してしまった。父はへらへらと「すまねえなあ」と笑っていた。その笑顔だけは若い頃から変わらぬ男前で母は全てをゆるしてしまう。今回もきっとそうなるだろう。 お向かいの造園屋さんが丹精込めた松の盆栽に『カツサンド』というフダを立てたところ即完売したという噂がまことしやかに流れたのは酒屋のおじさんの作り話が発端だったが、そんなことは知らない父は「それだ!」と叫んで作業場で電動丸ノコの音をさせ始めた。 5分もしないうちに音はやみ、得意満面の父が作業場から出てきた。手に『カツサンド』と書かれたゴザの端切れを持って。 「これは飛ぶように売れるぞ!」 何を言っているのかさっぱり分からなかったがゴザの端切れで事足りるなら、まあ大した損害も出るまいと放っておくことにした。 ところが、これがバカみたいに売れた。 『カツサンド』と書かれた手のひら大のゴザを片手に、もう片手に持った総菜屋のカツサンドだったり、居酒屋のだったり、刈ったばかりの頭と共にだったり、とにかく写真の装飾用として飛ぶように売れた。 初めのうちは100円だったゴザが、切れ端の始末をしたものに代わって500円に、縁がついて1000円に、一畳のものが5000円にと値上がりしても売れまくった。 一畳サイズのゴザなんかどうするのかと見ていたら、すっぽりと全身を覆い隠してカツサンドを持った手だけを出して写真に納まっていた。身バレ防止用だったらしい。アホみたいに売れた。 それだけ売れると家族も何も言えない。父のカツサンドはどんどんエスカレートしていった。ゴザだけではなく畳そのものにも大きく『カツサンド』と書いて店頭に並べた。どれだけわが父はアホなのかと頭を抱えたが、それがまさかの大口注文につながった。 イタリアン居酒屋から内装全ての注文が入ったのだ。イタリアンを捨ててカツサンド居酒屋にするという。いくらなんでもアホすぎるとは思ったが、上得意様にまさかそんな口はきけない。 こじゃれた店舗が父のセンスで妙な装飾だらけになっていくのを申し訳なく見守った。 ところが、これが大当たりした。 『カツサンド通り』の新名所として「パスタも美味しいカツサンド居酒屋」と呼ばれている。その名の通り、主力メニューはカツサンドでオリジナル、イタリアンバージョン、アフリカン、大航海時代カツサンドなど幅広いメニューでみるみる有名になった。 それに対抗心を燃やしたらしい総菜屋が店を改装して二畳ばかりのイートインスペースを作り、そこにカツサンド畳を敷いて集客した。これも当たった。そうなると床屋も、うどん屋も、酒屋も、造園屋も、町の茶道教室の先生までカツサンド畳を買って行った。作っても作ってもカツサンド畳は売れた。 ところが、突然父が言った。 「カツサンド畳はもう古い。これからはホットドッグだ!」 そう言ってまた作業場でごそごそし始めた。しばらくはカツサンド畳の貯えでなんとかなるだろうと思い放っておくと、湾曲させた半畳を二枚持って作業場から出てきた。 「これがホットドッグの皮だ!」 ホットドッグには皮などないと教えてやろうかとも思ったが、父がさっさと出て行ったので口を開くタイミングを逃した。 何をするのか見届けようとついて行くと、父は庭に回って犬小屋から昼寝をしていたコロを引きずり出して半畳でサンドイッチにしてしまった。父によくなついているコロは不満顔はしたが大人しくされるがままになっていた。 父は店の前にコロを挟んだ畳を置くと、作業場から『ホットドッグ』と書かれた畳を運んできて開け放した戸に立てかけた。 『カツサンド通り』を歩いていた人たちが、わっと寄って来て手に手にスマホをかまえて写真を撮りだした。コロはフラッシュに迷惑そうな顔をしたが父のために我慢してやるつもりだろう、ふて寝を決め込んだ。 『ホットドッグの皮』は飛ぶように売れた。 こうして父は『ホットドッグの皮』と『カツサンド』で大儲けして『カツサンド通りの挟みこみ富豪』と呼ばれ得意満面になっている。 「次はトルティーヤだ!」 町内会の会合でそう父が宣言して、町は次なる流行りモノ創生に動き出したのだった。
by satoko-mizo
| 2017-10-17 21:28
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