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2017年 10月 30日
『バッターボックスには石橋。期待の一年生エースです』
久しぶりに見る遼ちゃんはテレビの中、なんだか大きく見えた。この半年、見ないうちにずいぶん背が伸びたんじゃないだろうか。 甲子園のマウンドに立つ。球児なら誰もが夢見るその姿を、遼ちゃんは手に入れた。 当たり前だ。だって、遼ちゃんだもの。 二軒お隣、二歳年上の遼ちゃんは小さい頃から私のヒーローだった。強くて優しくて野球が上手で。 ずうっとエースで4番。
小学生の頃からスカウトが来ていたけれど、地元のリトルリーグで投げ続けるために、公立の中学校に通った。 必修だったクラブ活動は、活動時間が短くて野球の練習と両立できるという理由で囲碁部を選んだ。 二年遅れて囲碁部に入部した私に打ち方を基礎から指導してくれながら、遼ちゃんは語った。 「囲碁も野球に似ているよ。勝つためのパターンがあって、それを体で覚えこむんだ。あとは相手によって臨機応変に、パターンを繰り出せばいい」 白く丸くすべすべの石をパチリ、と盤上に置く遼ちゃんの日焼けした腕がまぶしくて、私はしばしば見惚れた。 私がハネツギを忘れずオサエられるようになったころ遼ちゃんは卒業し、野球特待生として関西の男子校に行ってしまった。 『ここまで得点がありません、星秀学園。バッターは石橋。ここは負けられません』 遼ちゃんはどんどん遠くへ行ってしまう。私を置いて行ってしまう。 どうか、お願い。 これ以上、活躍しないで。追いつけないところへ行かないで……。 どうか……。 『打ったーーー! 伸びる伸びる! これは大きい! ネットを越えられるか!?』 思わず、手を握りしめる。 どうか どうか お願い………… 超えて!!!! 白いボールは美しい弧を描いて青空へ吸い込まれ、スタンドから、わあっと大歓声が沸きあがった。
by satoko-mizo
| 2017-10-30 17:13
| 小さなおはなし
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